2017/06/30 03:02

 

 ジャック・ロンドンという作家が素晴らしい作家であるということは知っていたのです。「白い牙」・ 「野生の呼び声」、世界的に有名な作品もあって、若い時に何度か読んでいて、これは素晴らしく面白いものだと思っていた・・・・どうしてだろう?こんなに 読書が好きなのに、僕にお薦めの本を尋ねてくる人はそういない・・・・しかし、何年か前にいたのです。かつての同僚。背の高いスットした彼女だった。英語 が喋れて陽気で美人な彼女だ。しかし、思想が保守的で、それもそれで現在の「陽気」な要素なのかもしれないなぁ・・・・その彼女に薦めたのが「野生の呼び 声」だった。こんなにフールオヴテンションな文章を書く作家は、二十世紀には存在しないよ、と。

 ジャック・ロンドンが素晴らしい作者であるということは知っていた。

 ちなみにね、ロンドンは、1876年に生まれています。僕は1976年の生まれ。そして昨年の僕の年にメルヒネ自殺をした(四十歳)。つまり昨年だか一 昨年だかは、彼の没後百年だった。誰か知ってる?僕の周りでは誰も知らない。僕以外にそれを口にした人はいない。警備員のおっちゃんは知らな い。パートのおばちゃんも知らない。もちろん、音楽人は知らないだろう。ネクタイを外すことも出来ず、新たな挑戦!!なんて話をする、兵庫知事選挙を争う 頭のピーチクなおっさんどもは知るはずがない・・・・まぁ、そのあたりは、世界に向けた絶望に関する話なので、メフィストに任せて、っと。

 断言出来ますが、ロンドンの小説は、どれも抜群に(強くて)面白い。

 「ジョン・バーリコーン」という作品があります。歴史的、ドン・キホーテ的な酒飲みであったロンドンの、酒との関わりを自伝的に描いた作品。まず、作品 の中ではアルコール類全般、特にビールとウイスキーを「ジョン・バーリコーン」と擬人化する。”barleycorn”とは「大麦」のこと。元々は広くイ ングランド周辺で使われており、イングランド民謡にもなったよう。調べてみると面白くて、アングロ・サクソン時代(なんだ、そりゃ?)には「長さ」の単位 だった。そして、今でもそれは「靴の長さ」の単位として使われているって!!おお、バーリーコーン!!

 そこでジョン・バーリコーンとの邂逅があった・・・・
 ジョン・バーリーコーンが勇気づけてくれたのだ・・・・
 僕がいったのではない。ジョン・バーリコーンがいったのだ・・・・
 ジョン・バーリーコーンが踊っている。脳の中で・・・・ 

 上の文章はすべて僕が考えたもの。ロンドンは、そんなくだらないことは書かない。

 ひとつの状況を見て、それをどう面白おかしく、そして深く表現できるのか?そこには非常に大きな才能がある。島田紳介、明石家さんま、そんな名前を想像 する人がいるかもしれない。僕もそう思う・・・・しかし、その人達もやはり、この人たちの足下にも及ばない。ジャック・ロンドン。そして、莫言。この二人 の面白さはダイオウイカみたいだ。

 皆さんは、どうだろうなぁ?僕は、この気持ちを、体脂肪十三%の大胸筋の下あたりに位置するであろう胃のあたりに感じる痛みのように、ひどく切実に感じるのです。

 ジャック・ロンドンとジョン・バーリーコーンと木村佐和子さんのことを考えながらいつものサイゼリヤで飲んでいました。僕の前には、いつものように白ワ インが、五百ミリリットルのデカンタで置いてあり、これが僕の労働の三分の一時間分なんだぜ!!魔法の液体よ、雲まで連れて行っておくれ。それに乗れば、 僕は孫悟空のように世界中を旅し、おまけに形而上も形而下もすべての幽霊や死者と話しができるんだ!!轟の忍者よ。悄然とした鶴よ。僕を、芸術の里に連れ ていっておくれ!!などと思いながら、飲んでいたのです。

 白ワインをワイングラスに入れて、すすけた蛍光灯に透かしてみる。すこし泡が立っている。ちいさな、乳首のような泡だ。上昇する乳首。生まれては消え、消えては生まれ、線路のように何処までも続く、シューマイのように無限。衝動、天使が飛んでいる。

 キラキラとして、奇麗だ。

 あれ?これはジョン・バーリーコーンではないな?女性だな。そうかぁ、当時の酒場では、やはり親友は男性だった。分かる分かる。酒場って、男性しか行け なかったし。しかし、僕が今もっとも親しく、無理をせず、多少は無理をして格好をつけながら話せる形而下のものがあるとすれば、それは女性でしかあ り得ない・・・・親友と呼びたい、毎晩、毎晩会いたいものがあるとすれば・・・・おっさんなんかに絶対会いたかぁないでしょ?

 そうかぁ・・・・
 
 エリザベス・バーリコーン。「ベッキー」と呼びかけてみる。
 キャサリン・バーリコーン。「キャシー」と呼びかけてみる。
 ドロレス・バーリコーン。「ローラ」と呼びかけてみる。

 うーーーむ。

 どれもしっくりとは来ない。
 そもそも僕は、日本語名以外の女性を、この場合は男性も含めてだけれど、愛称で呼んだことなどない。一度もない。照れくさいぞ。なんかトマトみたいに真っ赤だぞ。肉を伴っていなくて、まったく嘘くさい。うーーーむ。これは、こいつは困った。国際的な問題だ。

 頭を掻きむしりながら、雨模様の街をそぞろ歩いたのです。厚焼き卵のような夜でした。僕のチャックは全開に開いており、おそらくシバ神のようなペニスが 突き出ていたはずです。惨めな僕を助けてくれる、真の友よ、しとどに濡れた頬を暖めてくれる(雨模様なので雨は降っていなかったけれど)永遠の憩いの巣 よ。百マイルも歩いた足を温めてくれる、公衆浴場よ。こんなにいつも側にいて、そのくせちっとも追いつけない、むしろ興奮する、愛のような、夢のような、 ヴァギナのようなアポジーとペリジーよ。君はなんという名前なのですか?

 近所の百均ローソン、もう一杯と思い、「ほろよい」なるチューハイを買ったのです。MASA-KAさんとの帰り道、ベロベロに酔った僕が「ほろよい」を買ったのを見て、どこが「ほろよい」やねん、と突っ込んでいたなぁ・・・・

 あっ、

 突然、降りてきました。
 分かった。すぐ近所に見つかった。家の近所、表札の隅っこに見つかった。

 ジョン・バリコ。

 木村佐和子さんとお送りする、「吉俣耕二・E=」第三夜は「保存」。7月12日(水)です。
 いくつかのライブやイベントをこなしてきましたが、こんなにドキドキしそうな夜を、僕は今まで知らない。多分、佐和子さんも知らないのではないかな?その「ドキドキ」を「保存」する。

 ジョン・バリコの力が必要だ。いや、必要ではない。しかし、僕は明日も仕事なので、もう眠らないと・・・・・しかし、ジョン・バリコが耳元で囁く。もう少し、私と一緒に踊りませんか?ケセラセラ、なるようになる、未来は見えない、だって、夜は一度きり、人生も一度きり、たった二百年しか生きられ ない、ああ、なんて残酷なのでしょう。なら、コンヤは、二人ですごしましょうよ・・・・お金なんて、集客なんて、まぁ野暮ったい。あら?あなたの上腕二頭 筋は、既にパンパンだわ・・・・

 ジョン・バリコのいつもの手口だ。